園城寺(三井寺)の閼伽井 大津市三井寺町

  • 2020.06.10 Wednesday
  • 21:26

 

 前に長命寺の閼伽井のお話をしました(http://omi-rekishi.jugem.jp/?eid=56)。今回はその続編、園城寺の閼伽井のお話をしたいと思います。

 

 園城寺の別名が「三井寺」。一般的にはこの名前の方が親しみがあるのではないでしょうか。近江八景でも「三井の晩鐘」ですし、駅名も町名も「三井寺」です。この名前の由来は、天智・天武・持統という古代の三人の天皇の産湯に使った霊泉が境内から湧き出ていることに由来する、と語られています。真偽のほどはともあれ、この霊泉は今も園城寺境内から湧き出ており、これを閼伽井と呼び、これを覆う堂を閼伽井屋と呼んでいます。

 

01園城寺本堂と閼伽井屋(画面左の屋根).JPG
園城寺本堂と閼伽井屋(画面左の屋根)

 

 閼伽井屋の中を覗いてみましょう。すると、左奥の石組みの中から「ぼこっ・ボコッ」と音を立てながら、水が湧き出ています。白洲正子は『西国巡礼』の中で、「金堂の裏手に三井の名の起こりである霊泉があった。・・・・しめ縄をはった岩の間から清水が流れており、それが一定の間をおいて、奈落の底からひびいて来るような音を立てて湧きあがる。千年も、いや何千年も前から、この泉はあきもせず、不気味な独言をいいつづけてきたのだろう。」と紹介しています。

 

02閼伽井(左隅が湧水地点).JPG
閼伽井(左隅が湧水地点)

 

 文禄四年(1595)、豊臣秀吉は園城寺に対して、突然「闕所令」を出します。園城寺の伽藍を地上から抹消せよ!という命令です。時の権力者には逆らえず、この時、園城寺の伽藍は、命令通り地上から姿を消しました。しかし、秀吉はその死の直前に闕所令を解除し、死後、園城寺の復興は、豊臣氏、徳川氏などの助力により急速に進み、現在の寺観が整いました。この復興の際に、本堂と共に閼伽井屋も新築されました。

 

 園城寺本堂は、秀吉の正室である北政所の寄進により建立された、典型的な密教寺院本堂で、約二十三m四方もある巨堂で、この中に、三寸二分(9.7センチ)の弥勒仏が、絶対秘仏として祀られています。因みにこの仏は、中国の南嶽大師慧思(聖徳太子の前身)が修行中に降臨した弥勒仏を、自らの分身として残した仏で、用明天皇が百済より得て、天智天皇に伝え、天智天皇の念持仏として崇福寺に納められていた霊仏であると、伝えられています。

 

 この巨大な本堂に閼伽井屋は寄り添うように建てられています。しかし、よく見ると違和感のある建物配置です。というのは、本堂の屋根の一部が閼伽井屋の屋根に重なっているのです。このため、本堂の雨落ち水が、直接閼伽井屋の屋根に落ちてきます。檜皮葺の屋根ですから、この部分が痛むのは歴然です。何故、園城寺はこのような不可思議な建物を建てたのでしょうか?

 

03閼伽井屋の蟇股(伝左甚五郎作).JPG
閼伽井屋の蟇股(伝左甚五郎作)
04閼伽井屋と本堂との関係.JPG
閼伽井屋と本堂との関係

 

 この理由は、園城寺が三井寺(御井寺)であると考えれば理解できます。つまり、園城寺の本体は、この閼伽井だからです。閼伽井は不動産ですから動かしようがありません。本堂も不動産ではありますが、再建の際にもう少し東にずらして建てることは、十分可能だったはずです。しかし、それをしなかった。あえて、本堂の屋根で閼伽井屋を覆いたかった。と考えれば理解できます。

 

05本堂の屋根が閼伽井屋に懸かっている.JPG
本堂の屋根が閼伽井屋に懸かっている
06閼伽井屋の軒裏と本堂の軒裏.JPG
閼伽井屋の軒裏と本堂の軒裏

 

 園城寺の本尊と閼伽井屋には、こんな物語が隠されているように思えます。

 

  「人が暮し始めるはるか以前から、長等山の麓から清浄な水が湧き出ていた。人がこの地に至りこの湧水を見たとき、人はここにカミを感じて湧水を祀り始めた。やがて仏教が伝来し、大津宮が置かれ、壬申の乱が勃発し、その後、この地に天智天皇、大友皇子の御霊を祀る寺院が建立され、天智天皇の念持仏であった弥勒仏が本尊として祀られた。後に、智証大師が寺を再興し、園城寺は大発展を遂げた。その過程で、本来の主の湧水は、雄弁な仏の陰に隠れてしまった。しかし、園城寺の僧は、本能的に、弥勒物と湧水との関係を感じ取っており、本堂の屋根で閼伽井屋を覆うことにより、湧水のカミと弥勒仏とが同格(一体)の神であることを表現しようとした。」

 

 巨大な園城寺の伽藍を構成する歴史と文化を一枚一枚剥ぎ取ってゆくと、最後には、近江に宿る自然の神との邂逅が待っているのです。

 

 白洲正子は、この閼伽井を拝し「その時、私は、・・この寺の「黄不動」の像を、思い浮かべた。それは展観というより、ご開帳という気分だったが、香の煙の中に浮かんだあの不動の姿は忘れられない。・・力強く、画面いっぱいに立った姿からは不思議な妖気が迫って来た。その不動と泉が似ているといったらおかしいが、それと同じものを私は、たしかにこの音の中に聞いた。」と、語っています。白洲正子も、水に宿るの神としての不動明王を感じ取ったのです。瀧に不動明王を感じる感性と同じです。

 

07閼伽井.JPG
閼伽井
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